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Blood Incantation / Starspawn (2016)

USコロラド州は最大の都市にあたるDenver「デンバー」を中心に活動を行う、デスメタルバンドによる1stフルアルバム。
デス/ブラック系を中心に取り扱うDark Descent Recordsからリリースされた。

以前発表されたデモやEP の時点で早くもデス/ブラック系の好事家筋から話題になっているバンドである。
と言うのも、サウンドの特性として、宇宙の連想性と、デスメタルに於けるアヴァンギャルドの様式を掛け合わせた、独創的なやり口自体が、その界隈に話題を生んだのもあるが、
メンバーのサイドプロジェクトが、精鋭揃いなのも確かだ。

ドラマーは、ブラック/ドゥームメタルバンドのStoic Dissention や、90`sオブスキュアプログレデスの様式を汲んだデスメタルバンドCentimaniでも活動し、
それ以外のメンバーは、このBlood Incantationと並行して、Spectral Voice と言うバンド、
最近RECORD BOYの方で局地的に話題なMETAL OF DEATH一派と共振する、密教的かつ陰惨なサウンドのドゥームデスメタルバンドでも活動している。

なお、独創的なやり口についてであるが、宇宙の連想性については、
AuguryやRings Of Saturnといった最近のハイテクなデスメタルバンドではなく、デスメタルとして元祖のNocturnusの初期や、少し時代が流れ出てきたオーストラリアのアヴァンギャルドブラック/デスメタルバンドStargazer等の、所謂歪んだダウンチューニングの可能性を拡張しながら、混沌としたアトモスフィアを導き出す方法論が用いられており、アヴァンギャルドの様式については、アヴァンギャルドデスと形容されるフィンランドの「異端」ことDemilich、また同じくしてカナダのGorguts等の、特異なリフを主体に畳みかけられる連続的な死による暴虐と呼べるもので、この両者が掛け合わされたものがBlood Incantationの音像と言える。

ただこちらも精査していけばStargazerにはジャズ/フュージョンの素養としてDemilichと共振する処が在るし、
Nocturnusもスラッシュの激化以外の点で見やれば、アヴァンギャルドもアヴァンギャルドなアプローチで語り継がれてきたバンドである為、
上記に挙げられたバンドの総体的な、言わばデスメタルの世界の中で、病的なまでに特異なリフを主体に畳みかけ、深遠的な宇宙の混沌を導き出すバンドが、
精査された類型解釈として、正確なBlood Incantationのアイデンティティと言える。

昨15年に発表されたEP「Interdimensional Extinction」では、
Stargazerが醸し出す内省的な暗黒の中で、Demilichみたいなリフが、どろどろと這い廻り、
時折、音響系の手法やマイナースケールでの流麗なリフなどを聴くことも出来る。
何よりも今後の躍進を期待させるバンドと言った確信が得られるような充実とした音源であったように思える。
歌詞の足りない部分を、情感的なインストゥルメンタルで伝える手法が多く、インブロにも長けていることを察せさせられる。
下記の歌詞にもそういったことが見て取れる。これは、その作品の序章となる歌詞が当てられた一曲目のものである。

♯1 The Vth Tablet (Of Enûma Eliš) Eliš)
ーーー
小惑星程度の惑星の大きさを捕まえ
人の残党は星を横断した

人々は時のホールの中を落ちていく
はためく星の輝きが燃える下には
永遠の夜が繰り広げられている、儚いことにも

~インブロ~
ーーーー

そしてきたる16年の本作だが、Jeff Barrett氏なるフレットレスベースを操る男性の加入作となり、バンドアンサンブルもLowな重みに磨きが掛かっている。
題名のStarspawnは、惑星の創出を意味し、創出がテーマなだけ、音像にもそういったドラマが見てとれる。
ドラマには、解散したスウェーデンのMorbus Chron を彷彿とさせる、幽玄な静動の対比も構築美もあり、
幻想性には、USの伝説的プログレッシブデスメタルバンドCynicのような雰囲気も準えられている。
元々フュージョン系の素養は確かであるので、あながち穿ち過ぎでもないだろう。
全5曲約35分編成の音空間は、そういった幻想性と、前作を踏襲する特異な歪みによる共存の、目覚ましい一作に仕上がっていると言える。

ロウエンドな領域からこういった叙情感を醸し出す手法は、The Chasm に代表されるメキシコのデスメタルにも近しく、兎に角ドラマティックだ。
端的に言えば本作は、過去カスカディアンブラックを創出したWolves In The Throne Room 等が嗜好したアニミズム の、デスメタルに於ける実践例でもあり、人間の脳内で生きた宇宙とも言える。
作中での安寧に微睡む幻想性も、基盤にロウなアプローチがあるからこそ、宇宙の暗黒/無/混沌からの、創出/起源として、必然的に活きてくるものだ。

近所の寺に、「ものの特性を知り、ものの心を理解し、ものに感謝しながら使えば、ものが生きてくる」と言う格言が掲載されていたが、
それを汲んで申し上げれば、宇宙を自分の子供のように愛でているBlood Incantationにとって本作は、彼等のその全能感が産み落とした、生きた暗黒世界そのものであり、
作中の展開美、構築美に落とし込まれているリアリスティックな陰影には、その面目躍如が孕んでいる。
抽象的な歌詞を補完させる壮大でスリリングなインストゥルメンタルの連続に、茫漠たる空間を瞥見させる説得力が満ち溢れているのだった。
正に驚異的な1stであると断言したい。

ーー
彼らは戦い、死滅を見る
惑星の墓地を作る

このひどく悲しい宇宙で
曲がりくねった次元

なんの絶命など知られていない...
ただ出入り口だけ...
お前は星の門

ーー

曲目は、

1. Vitrification of Blood (Part 1)  13:38   
2. Chaoplasm   05:43   
3. Hidden Species (Vitrification of Blood Part 2)  07:10   
4. Meticulous Soul Devourment  04:20   
5. Starspawn  04:28   
 
Total  35:19  


♯2はyoutubeにリンクしてあります。

bandcamp
Starspawn