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Liturgy / The Ark Work (2015)
 
US産エクスペリメンタルブラックメタルバンドの3rdフルアルバム。
エクスペリメンタル/ドローン系の取り扱いで知られるThrill Jockey Recordsからリリースされた。

Liturgy をgoogle翻訳に伺ってみると、典礼というワードが出てくる。
典礼というのは、キリスト教用語で、神への公的礼拝を表現するために定められた儀式、
或いは儀式の総体を言うらしいのだが、サタニズムの信仰が根深いこのジャンルに於いて、言うなればこのクリスチャン的見地を持つこのバンドは、
伝統的なブラックメタルの様式に囚われない、革命的な音楽を嗜好するバンドと言えるのではないだろうか。(クリスチャンぶっちゃけ結構いるけど)

例えばメタリカの音楽性について元メガデスのマーティー・フリードマン氏が言うところでの、
「一つのリフの尺を長くすることで聴き手にトランス感覚を誘起させる」なるものと同じで、このバンド、その音像の特記事項としても「それ」が当て嵌るのだが、
ただその影響元が少し変わっているからして、この革命的な音楽になっていると一時的に断定していけば、
「そこ」或いは、オールドスクールなブラックメタルよりも、ニューウェイヴの一端やポストロックの先駆け的サウンドから影響を受けたのだろうと推測できるものがある。

それは、ドラゴンクエストみたいなファンファーレが収束していき弾けることにより始まる本作中での
#3での単純な構成が延々と繰り返され盛り上がっていく曲展開や、
その全体中でのボーカルワークがエレクトロ/トランスを彷彿とさせるものであったりすることから、類推されたもので、
遍く音を構成する二次元的な発想力については、やはりプリミティブな動機が絡みついているとも思えなくはない。

また、このような概観の源流にあるのはユーモアであり、実験精神の賜物というのはまた断定的な見方であるが、
ブラックメタルの親和性を鑑みれば、その発展的な可能性に目を瞑ることはできない。
得てしてユーモアというのは、受け取り手に分かりやすさを伴い心を擽りだすものである。
概ね本作にもそれは当て嵌ることであって、同時にその判り易い楽曲の一つ一つがパーツとなって聞き手に畳み掛けるアルバムの構築力は、客観的に見ても感嘆モノであるのではないだろうか。
その構築力を担う、ドラゴンクエストでの祈りを想起させる#7を丸々イントロにした#8での疾走には、正に筆舌し難い良さがある。

この辺の展開の妙と、実験精神という名のブラックメタルの親和性なるものがアドバンテージとなって、
本作をアンダーグラウンドブラックメタルから外れた、非内省的な領域に充実足らしめる要因となっているのだろう。

ユーモアや希望を感じさせる曲展開と、意識的に配置されたRPG要素のある、
トランス感覚の色濃いエクスペリメンタルブラック作品。
言わば、ブラックメタルの歴史を塗り替え得る代物であるように思う。

曲目は、

1. Fanfare  02:21   instrumental 
2. Follow  03:31
3. Kel Valhaal  07:11 
4. Follow II  07:30
5. Quetzalcoatl  04:48  
6. Father Vorizen  05:58 
7. Haelegen  02:55   instrumental 
8. Reign Array 11:36 
9. Vitriol  05:21
10. Total War  05:06 

Total  56:17  

#8はyoutubeにリンクしてあります。

bandcamp The Ark Work